個人年金は得なのか

なんだか生命保険会社の個人年金商品が割と人気があると聞きます。実際私も生保レディから勧誘を受けたりもするわけなんですが、説明を聞けば聞くほどうさんくさいんだよねこれが。
例えば日本生命の年金名人という商品の場合、毎月1万円以上、さらにボーナス月には10万以上の支払いを60歳まで続けてやっと年金が受け取れます、というんだよね。しかも10年に分けて受け取らないと目減りするんだそうで。んで途中解約するともの凄い割合で元本割れすると。当然のように言われるわけです。

多少金融リテラシーのある人ならこれは年金じゃないことに気づきます。長生きしても沢山貰える訳じゃないから年金じゃないんです。ただの投資ファンドなんです。30歳であれば、30年満期途中解約不可ファンドということです。

そうなると30年満期型のファンドとして適正な利回りがあるかどうかに注目することになるわけだけど、これがまた酷い。ちょっと計算してみる。

  • 30万円を30年間払うことにする
  • 積立金は年初に1年分を払うことにする


保険会社の予定利率は1.4%くらいだそうなので、そのときの投資金額の増え方は以下の通り。

年次 投資金額 年末の運用総額
1 300,000 304,200
2 300,000 612,659
3 300,000 925,436
4 300,000 1,242,592
5 300,000 1,564,188
6 300,000 1,890,287
7 300,000 2,220,951
8 300,000 2,556,244
9 300,000 2,896,232
10 300,000 3,240,979
11 300,000 3,590,553
12 300,000 3,945,021
13 300,000 4,304,451
14 300,000 4,668,913
15 300,000 5,038,478
16 300,000 5,413,217
17 300,000 5,793,202
18 300,000 6,178,506
19 300,000 6,569,206
20 300,000 6,965,374
21 300,000 7,367,090
22 300,000 7,774,429
23 300,000 8,187,471
24 300,000 8,606,295
25 300,000 9,030,984
26 300,000 9,461,617
27 300,000 9,898,280
28 300,000 10,341,056
29 300,000 10,790,031
30 300,000 11,245,291

で、10年間かけて運用資産を受け取るので、その期間中も1.4%で運用することにすると、以下のようになります。

年次 受取額 残り
1 1,196,176 10,189,803
2 1,196,176 9,119,538
3 1,196,176 8,034,289
4 1,196,176 6,933,846
5 1,196,176 5,817,998
6 1,196,176 4,686,527
7 1,196,176 3,539,216
8 1,196,176 2,375,843
9 1,196,176 1,196,182
10 1,196,176 6
11,961,766


9,000,000円払って11,961,766円の受け取りです。
これが得かどうかを判断するために無リスク資産である国債の利回りと比較します。
http://www.bloomberg.co.jp/markets/rates.html

期間 金利(%)
1年 0.16
2年 0.23
3年 0.3
4年 0.42
5年 0.52
6年 0.59
7年 0.78
8年 0.9
9年 1.05
10年 1.2
15年 1.7
20年 2.07
30年 2.2

これを元に国債での運用利回りを計算してみます。10年分割での受け取りなので、なるべく長期の国債が買えるように運用期間を上乗せしています。1回目の運用資産受け取りは上乗せが0になっている年次の積立分を受け取るということです。

年次 運用期間上乗せ分 運用期間 30年物 20年物 10年物 総利回り 運用結果
1 0 30 30 0 0 1.920997829 576,299
2 1 30 30 0 0 1.920997829 576,299
3 2 30 30 0 0 1.920997829 576,299
4 3 30 30 0 0 1.920997829 576,299
5 4 30 30 0 0 1.920997829 576,299
6 5 30 30 0 0 1.920997829 576,299
7 6 30 30 0 0 1.920997829 576,299
8 7 30 30 0 0 1.920997829 576,299
9 8 30 30 0 0 1.920997829 576,299
10 9 30 30 0 0 1.920997829 576,299
11 0 20 0 20 0 1.506476271 451,943
12 1 20 0 20 0 1.506476271 451,943
13 2 20 0 20 0 1.506476271 451,943
14 3 20 0 20 0 1.506476271 451,943
15 4 20 0 20 0 1.506476271 451,943
16 5 20 0 20 0 1.506476271 451,943
17 6 20 0 20 0 1.506476271 451,943
18 7 20 0 20 0 1.506476271 451,943
19 8 20 0 20 0 1.506476271 451,943
20 9 20 0 20 0 1.506476271 451,943
21 0 10 0 0 10 1.126691778 338,008
22 1 10 0 0 10 1.126691778 338,008
23 2 10 0 0 10 1.126691778 338,008
24 3 10 0 0 10 1.126691778 338,008
25 4 10 0 0 10 1.126691778 338,008
26 5 10 0 0 10 1.126691778 338,008
27 6 10 0 0 10 1.126691778 338,008
28 7 10 0 0 10 1.126691778 338,008
29 8 10 0 0 10 1.126691778 338,008
30 9 10 0 0 10 1.126691778 338,008
合計 13,662,498

運用期間30年での総利回り1.92というのは30年物国債の利回りを30乗したものです。

13,662,498円になってしまいました。国債で運用するだけでこんな大差がつくのです。これは予定利率や国債利回りがずっと変わらないと仮定した場合の数字ですが、両者のスプレッドが大きく変わるわけでもないでしょうから、実際にこれくらいの差はつくはずです。

ただ以下のことに注意してください。

  • 税金については考えていないので差が縮まるかも
  • 複利での計算なので国債の利息の再投資については適当
  • 30年物国債なんて個人じゃ買えないだろう

それから当然だけど国債はいつでも換金できるので、個人年金にあるような解約リスクはありません。
それに対して30年間積み立てを続けることができなくなるリスクといえば、例えば勤め先が倒産したりクビになったり自分探しの旅に出たくなったり住宅ローンを借りたり離婚の慰謝料とか養育費とか枚挙にいとまがありません。


そもそも保険会社というのは顧客のリスクを引き受けて平坦化してやることを生業にしているはずです。そこに保険会社の社会的価値があるのです。それなのに個人年金商品については逆に顧客にリスクを押しつけながら、自らは悠々と利ざやを稼いでいるわけです。このような行為は許されるものではありません。


そんなわけなので、個人年金は保険会社が儲かるだけの金融商品なので絶対に契約すべきではありません。