日銀の信用緩和政策(credit easing)

日本銀行は10月5日の金融政策決定会合後に、金融緩和の強化に加えて「信用緩和(credit easing)」を発表しました。これを包括緩和と命名しています。
この信用緩和ですが、具体的にはETF(上場投資信託)とREIT不動産投資信託)を日銀が直接購入するとしたことを指します。
日銀はバブル崩壊後の景気後退局面において、長年に渡って極めて緩和的な金融政策を行ってきました。これによって金利水準は下がり、経済活動に対してプラスの効果があったことは間違いがありません。しかしながら「失われた10年」などと言われるように、バブルの後遺症は極めて大きく、現在においても回復していないのが実態です。

サブプライム危機後の各国の経済政策の動員によって、世界の景気は一旦持ち直しました。これについて欧米の金融当局者が危機は去ったかのような認識を示していましたが、白川日銀総裁はこれを「偽りの夜明け」と表現しています。10月10日の国際金融協会年次会員総会において、この点をちょっと得意げに話しています。

白川総裁は、金融危機がもたらす悪影響は金融システムの問題だけではなく、バランスシートの問題だと指摘しています。このバランスシートが改善しなければ経済が活性化することはないと言うことです。しかし金融緩和だけではバランスシートはなかなか改善しないのが現実です。なぜならば、この改善努力そのものがデフレ圧力となるからです。収益を負債の削減にあてたり賃金を下げたりする行為は物価を下げ、景気を悪くします。

短期金利の低下余地が限界的となっている状況を踏まえ、金融緩和を一段と強力に推進するために、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促していくこととした。こうした措置は、中央銀行にとって異例の措置であり、特に、リスク・プレミアムの縮小を促すための金融資産の買入れは、異例性が強い。
この点を明確にしたうえで、市場金利やリスク・プレミアムに幅広く働きかけるために、バランスシート上に基金を創設し、多様な金融資産の買入れ、およびこれと同じ目的を有する固定金利方式・共通担保資金供給オペレーションを行うことが適当と判断した。このうち、基金による長期国債の買入れは、現行の長期国債買入とは異なる目的のもとで、臨時の措置として行うものである。このため、基金による買入れにより保有する長期国債は、銀行券発行残高を上限に買入れる長期国債と区分のうえ、異なる取り扱いとする。

これは10月5日の声明の一部です。「各種リスク・プレミアムの縮小を促していく」というところに注目せねばなりません。従来、政策金利を下げてほぼ0にすることは行われてきましたが、それによって企業は倒産しにくくなるとはいえ、先に述べたように企業活動が経済に対して後ろ向きの影響を与え続けることになり、結局10年経ってもバランスシートの改善は終わらないのです。
経済環境が悪いままですから国債以外の債券の利回りは高止まりすることになりますし、市場がリスクに敏感になる状態はずっと継続するのです。またこのような状態が継続すると、ハードランディングによる解決を主張する狂信的な経済学者が登場します。これは一種のテロリストのようなものであり、国民の生活の安定を奪う大変危険な存在です。我が国にも現れました。先日逮捕された木村剛もその一人です。
話をもどしますが、日銀がこの問題に切り込んだことは大変大きなことです。常識的な金融緩和政策ではバブルの後遺症に対処するには力不足だったと認めたのです。

日銀は自らが国債以外の債券やREIT、果ては株にいたるまで買付を行い信用を供与すると表明しました。これでリスクプレミアムは下がるでしょう。例えばREITの利回りは現在6%程度のものが多いですが、これが4%にまで下がるとすれば投資口価格は1.5倍になります。このような資産価格の安定を通じた緩和効果が企業や個人の隅々まで行き届くようになるわけで、バランスシートの改善速度を上げる効果が期待できると思います。

私は以前から我が国の抱える経済問題の解決のために名目GDPを上げろと言い続けてきました。常識的にはこれは政府の仕事です。消費税の撤廃やインフラ整備の公共事業を莫大な金額をかけて行うように主張してきました。しかし政府には学識のある者はおらず、いくら待っても有効な政策はでてこないことは間違いがないでしょう。日銀はこのような現状を踏まえて、異例の世界に踏み出す決心をしたのだと思います。そういう意味では日銀の背中を押した民主党内閣の無能さが役に立ったと言えるのかも知れません。